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【書評】東浩紀著『弱いつながり 検索ワードを探す旅』・「自分探し」ではない新たな旅のやりかた

東浩紀著『弱いつながり 検索ワードを探す旅』について

今回ご紹介する本は、東浩紀著『弱いつながり 検索ワードを探す旅』

著者は、評論家、現代思想研究者である東浩紀氏。

この本を知るきっかけは、TBSラジオの『荻上チキ Session-22』の「Session袋とじ」というコーナーに、東浩紀氏が出演されていたことから。
新刊であったの『弱いつながり 検索ワードを探す旅』の宣伝のための出演でした。
それが、とっても面白かったのです。
(2014年09月09日(火)の放送回)

その時に、「検索」「キーワード」「旅」という、わたしにとっては非常に興味をかきたてる言葉を、独自の視点と鋭い切り口で語られていました。
それを聞いて、「これはちょっと私が言語化できないことが書かれているかもしれない」と思い、購入し読んでみました。

本のタイトルにある「弱いつながり」について。
これは、マーク・グラノヴェッターというアメリカの社会学者が提唱している概念「弱い絆」、「弱いつながり」からきているとのこと。

自分のことをよく知っている人との「強いつながり」。
それよりも、あまり自分のことを知らない、パーティーで1回あったくらいの「弱いつながり」の人のほうが成功のチャンスや、人生の転機につながりやすい。

つまり、「弱いつながり」のほうが、想定外なことが起こりやすいということ。
そういう概念。

その「弱いつながり」である「偶然の出会い」をどうやって見つけていくか。
そして、「強いつながり」で囲まれている「今の環境」からどうやって動いていくか。

その方法を、「旅」という手段を使って具体的に書かれています。

身体を使ったリアルな旅をしろ!
環境を意図的に変えろ!

これが結論。

今回は、私が本書でとくに気になったポイントについて2つご紹介します。

旅は「自分」ではなく「検索ワード」を変える

「旅は「自分」ではなく「検索ワード」を変える」という章には、このように書かれています。

ぼくらはいま、ネットで世界中の情報が検索できる、世界中と繋がっていると思っています。台湾についても、インドについても、検索すればなんてもわかると思っています。しかし実際には、身体がどういう環境にあるかで、検索する言葉は変わる。欲望の状態で検索する言葉は変わり、見えてくる世界が変わる。裏返して言えば、いくら情報があふれていても、適切な欲望がないとどうしようもない。

「身体がどういう環境にあるかで、検索する言葉は変わる」というフレーズ。
意識や思考を変えたければ、移動すれば移動や引越しをすればよいというのはよく聞きます。
ですが、「検索する言葉は変わる」というフレーズのほうが、実にしっくりきます。

そして、こう続きます。

本書では「若者よ旅に出よ!」と大声で呼びかけたいと思います。ただし、自分探しではなく、新たな検索ワードを探すための旅。ネットを離れリアルに戻る旅ではなく、より深くネットに潜るためにリアルを変える旅。

「旅」と言えば「自分探し」。
これは定番。
そうではなく、「新たな検索ワードを探すための旅」「より深くネットに潜るためにリアルを変える旅」。
この発想はなかったですね。
ガツンときました。
「ネットを離れリアルに戻る旅」という意識のほうが強かったかもしれません。
そのほうが、「リセット」という感覚がしましたが、どうやら「リセット」の定義を変えたほうがいいのかもしれません。

検索するキーワードは、自分が知っているキーワード、見たいと思っていることしか検索できない。
それ以上のことはできない。
だからこそ、自分の限界を超えないとその壁を突破できない。
とてもシンプルなことである。
だからこそ、本の帯に書かれているように、「旅」は「グーグルが予測できない言葉を手に入れる」ためのものなのかもしれませんね。
東浩紀著『弱いつながり 検索ワードを探す旅』表紙帯画像

検索する言葉で世界が変わるという一例

検索する言葉で世界が変わるという一例を実際にやってみたい。
私はロシアで働いていたので、ロシアの情報を仕入れたいときは、ロシア語で打ち込むことが多い。
本書の中でも取り上げられていたが、「チェルノブイリ」を日本語とロシア語で検索してみる。
そうすると、まったく違う景色がブラウザに広がります。
(そもそも「チェルノブイリ」という発音自体間違っています。「チェルノーヴィリ」と発音しないとロシアでは通じません)

わかりやすく動画の「YouTube」で検索をしてみる。
これは日本語で「チェルノブイリ」と入れてみたとき。
『チェルノブイリ』「YouTube」検索結果キャプチャ画像
これはロシア語で「Чернобыль」と入れてみたとき。
『Чернобыль』「YouTube」検索結果キャプチャ画像
まったく結果が違います。
日本語で「チェルノブイリ」と検索した時は、テレビ番組のコピーがほとんど。
ですが、ロシア語で「Чернобыль」と検索した時は、実際に「チェルノブイリ」へ行ったレポや、日本未公開的な動画などがわんさか出てくる。
検索結果数も、日本語の「約37,000件」に対して、ロシア語は「約974,000件」。
約26倍ちがいます。
現地の情報は、現地の言葉で打ち込むことで濃い情報が手に入ります。
打ち込むキーワードを変えるだけで、見える世界、出会える世界が変わるということですね。

軽薄で無責任な「観光客としての生き方」

旅になれているほど、「観光」という言葉にすこし抵抗が出てくると思います。
それに対して、このように書いています。

しかし、観光はそんなに悪いものでしょうか。観光はたしかに軽薄です。観光地を通り過ぎていくだけです。しかし、そのような「軽薄」だからこそできることがあると思います。社会学者のディーン・マキャーネルが、観光には、いろんな階級に分化してしまった近代社会を統合する意味があると述べています。ひとは観光客になると、ふだんは行かないようなところへ行って、ふだんは決して出会わないひとに出会う。たとえばパリに行く。「せっかくだから」とルーブル美術館に行く。近場の美術館にすら行かないひとでもそういうことをする。それでいい。美術愛好家でないと美術館に行ってはいけない、というほうがよほど窮屈です。
観光客は無責任です。けれど、無責任だからこそできることがある。無責任を許容しないと拡がらない情報もある。「はじめに」で述べた弱い絆の話を思い出してください。無責任な人の発言こそが、みなさんの将来をひらくことがあるのです。

納得です。
たまにツアーパックみたいなもので観光すると、自分だったら絶対にチョイスしない旅先が入っているものです。
ですが、そういうところが実は面白かったり、なにか新たな発見や気づきがあることが多い。
自分のスタイルを守ることばかりせず、フットワークよく偶然性を楽しむことも大事。
表層的な旅の移動であっても、行かないより行っておいた方がいい。
食わず嫌いは、自分のチャンスをつぶす、機会損失かもしれない。

そしてこう続きます。

世の中の人生論は、たいてい二つに分けられます。
ひとつの場所にとどまって、いまある人間関係を大切にして、コミュニティを深めて成功しろというタイプのものと、ひとつの場所にとどまらず、どんどん環境を切り替えて、広い世界を見て成功しろというタイプのもの。村人タイプと旅人タイプです。でも本当はその二つとも同じように狭い生き方なのです。だから勧めたいのは、第三の観光客タイプの生き方です。
村人であることを忘れずに、自分の世界を拡げるノイズとして旅を利用すること。旅に過剰な期待をせず(自分探しはしない!)、自分の検索ワードを拡げる経験としてクールに付き合うこと。

たしかに、「村人タイプ」と「旅人タイプ」のどちらかに分けてしまいがち。
第三の選択としては、最近では「デュアルライフ」といいそうであるが、「観光客タイプ」はそれとも違う。
でも、ぜんぜん「あり」である。
「観光客の無責任さ」というのは、実はかなり自由度が高い選択肢なのかもしれない。
そして、たのしい「旅」であるのかもしれない。

【書評】東浩紀著『弱いつながり 検索ワードを探す旅』まとめ

それぞれのひとが「旅」というものに定義を持っていると思う。
この本は、「検索ワードを探す旅」というテーマで、その定義に対して見事なまで逆説的にアプローチしてきます。
逆説的であるけれど、かなり実践的に使える考え方であり、方法である。
旅をすることで、自分の検索ワードがどんどん増えていく。
それは、自分と検索エンジンが一体化していくようなことなのかも。
「旅」というものを、新たな視点、思考から考えさせてくれた1冊です。